Congress Report

第38回日本動脈硬化学会総会・学術集会 モーニングセミナー「フィブラートの大規模臨床試験の流れ」

 高コレステロール血症が冠動脈疾患の重要なリスクファクターであることは、多くの研究によってコンセンサスが得られており、今日までスタチンによる LDLコレステロール低下療法に大きな力が注がれてきた。しかし、それによる心血管イベント抑制率は約30%程度と、決して満足のいくレベルとは言えない。コレステロールに次ぐ心血管疾患のリスクファクター(Beyond Cholesterol)として、複数の要因が集積した疾患概念であるメタボリックシンドローム(MetS)が近年注目されてきている。その背景となる因子の一つがトリグリセライドでありHDLコレステロールであるが、これらは糖尿病においても特徴的な脂質異常の因子である。心血管イベントを抑制するための高脂血症治療としては、スタチンによってLDLコレステロールを下げるだけでなく、トリグリセライドやHDLコレステロールを視野に入れた治療が重要であり、そのためにはフィブラートによる治療への期待が大きい。寺本氏はフィブラートの大規模臨床試験をレビューし、心血管疾患予防を目的とした高脂血症診療におけるフィブラートの可能性について解説した。

開催日時:2006年7月13日(木)
開催場所:東京国際フォーラム
共催:第38回 日本動脈硬化学会総会・学術集会 / 帝人ファーマ株式会社

馬渕 宏 先生

座長 馬渕 宏 先生
金沢大学大学院 医学系研究科 脂質研究講座 特任教授

 心血管イベント抑制におけるスタチンの役割は重要であり、これまで多くのエビデンスによりその効果が明らかにされてきたが、全ての問題をスタチンのみで解決できるわけではない。メタボリックシンドロームや糖尿病の治療を考える場合、トリグリセライドやHDLコレステロール治療の重要性について認識が高まってきており、フィブラートに関する一連の大規模臨床試験を通して、ベネフィットが得られる疾患群や具体的な患者特性の探求が望まれている。今後このようなエビデンスがますます蓄積されることに期待している。

寺本 民生 先生

演者 寺本 民生 先生
帝京大学医学部 内科学 教授

 2型糖尿病やメタボリックシンドロームにおいて、トリグリセライドやHDLコレステロールの異常が心血管イベントのリスクファクターとなることが指摘されてきた。今回フィブラートの大規模臨床試験を総括する中で、2型糖尿病患者を対象としたFIELDによってフィブラートのエビデンスが大きく前進したことに気付かされる。FIELDは約1万人規模の糖尿病患者のデータを集積しており、糖尿病領域においてはスタチンのエビデンスにも見られなかった可能性を示したという点で画期的といえるだろう。

冠動脈疾患のリスクファクターとしてのLDLコレステロールと、その低下療法の限界

会場風景

 現在、心血管疾患は世界の死因の第一位を占めており、その増加が大きな問題となっている。このような状況下、心血管疾患の発症や進展を予防し、世界寿命を延伸させるうえで高脂血症診療は大きな役割を担っている。これまでにLDLコレステロールを低下させることにより、心血管イベントを抑制できることが大規模臨床試験で実証されており、LDLコレステロール低下療法の意義は明らかとなっている。しかし一方ではメタボリックシンドロームの概念の普及を背景に、腹部肥満や糖尿病のほか、LDLコレステロール以外のトリグリセライドやHDLコレステロールなどの脂質も冠動脈疾患のリスクファクターとして重要であること(図1)、さらにこれらのリスクファクターの重積とともに冠動脈疾患リスクが高まることも明らかになっている。
 これらの知見から、高脂血症の治療にあたってはLDLコレステロールの低下を図ることは確かに大切であるが、それだけでは不十分でトリグリセライド、 HDLコレステロール、肥満、糖尿病などその他のリスクファクターも視野に入れて総合的にコントロールする必要があると言える。

図1 血清脂質値と虚血性脳血管イベント発生率の関係
図1 血清脂質値と虚血性脳血管イベント発生率の関係

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フィブラートの作用メカニズムと心血管イベント抑制に関するエビデンス

 フィブラートは長い歴史をもつ高脂血症治療薬で、日本では主にベザフィブラートとフェノフィブラートが使用されている。近年、フェノフィブラートの研究成果から、フィブラートは核内受容体の1つであるPPARαの活性化を介して、脂質代謝のみならず糖代謝、炎症、酸化ストレスに対して動脈硬化抑制的にはたらくことが示唆されている。
 このような作用メカニズムをもつフィブラートの代表的な大規模臨床試験として、最初に公表されたHHS(Helsinki Heart Study)は、約4,000例を対象としたゲムフィブロジルによる一次予防試験であり、34%の心血管イベント抑制効果が認められた。
 BIP(Bezafibrate Infarction Prevention)は、約3,000例を対象としたベザフィブラートの二次予防試験で、トリグリセライドおよびHDLコレステロールの改善作用は十分に認められたものの、心血管イベント抑制については有意な結果が得られなかった。ただし、トリグリセライド値とHDLコレステロール値別のサブ解析では、トリグリセライド値200mg/dL以上、あるいはトリグリセライド値200mg/dL以上かつHDLコレステロール35mg/dL未満のサブグループにおいて心血管イベントの有意な抑制効果が認められた。
 VA-HIT(Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Cholesterol Intervention Trial)は、低HDLコレステロール血症患者約2,500例を対象としたゲムフィブロジルの二次予防試験である。ゲムフィブロジルによりHDLコレステロールの6%上昇、トリグリセライドの31%低下がみられたが、LDLコレステロールの有意な変動は認められなかった。このような脂質の変化を背景として、22%の心血管イベント抑制効果が示された(図2)。これは、HDLコレステロール上昇とトリグリセライド低下が心血管イベントの発生予防に大きな意味をもつことを示唆する所見と言える。なお、その後の解析から、特にHDLコレステロール上昇が心血管イベント発生予防に寄与していることが示されている。

図2 VA-HITにおけるゲムフィブロジルによる心血管イベント抑制効果
図2 VA-HITにおけるゲムフィブロジルによる心血管イベント抑制効果

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FIELDの成果 −2型糖尿病患者における脂質改善の意義が実証−

 先に述べたとおり高脂血症の治療にあたっては、糖尿病あるいはメタボリックシンドロームといった病態を踏まえて治療方針を立案することが重要である。糖尿病患者は非糖尿病者に比べて大血管障害の発生リスクが高い。現在本邦で行われている大規模調査JDCS(the Japan Diabetes Complications Study)の中間報告からも、糖尿病患者ではトリグリセライドがLDLコレステロールおよび年齢と並び虚血性心疾患の有意なリスクファクターであることが示されている(表1)。
 FIELD(Fenofibrate Intervention and Event Lowering in Diabetes)は、2型糖尿病患者約10,000例を対象に、微粉化フェノフィブラート長期投与の心血管イベント抑制効果を検証した大規模臨床試験である。5年間にわたるフェノフィブラートの投与により冠動脈イベント(非致死性心筋梗塞+冠動脈心疾患死)は11%抑制されたが、有意差は認められなかった。ただし、イベント別にみると非致死性心筋梗塞は24%の有意な抑制効果が認められ、また、全心血管イベントも11%有意に抑制された。さらに、対象の約8割を占める心血管疾患の既往がない患者についてみると、冠動脈イベント、全心血管イベントともに有意に抑制され、2型糖尿病患者における微粉化フェノフィブラートの一次予防効果が明らかとなった(図3)。また、これらの心血管イベント抑制効果に加えて注目すべきこととして、2型糖尿病患者に合併する網膜症や腎症などの細小血管障害に対する抑制効果も認められた(図4)。
 一方、安全性についても有望な成績が得られている。これまでフィブラートとスタチンの併用は横紋筋融解症の発現を助長するという懸念から一般に禁忌と捉えられていたが、本試験ではフェノフィブラート群4,895例のうち、平均8%の患者にスタチンが追加投与されていたにもかかわらず、このような患者に横紋筋融解症は1例もみられなかった。ちなみに、アメリカFDAに報告されたスタチンとフィブラートの併用例における横紋筋融解症の発現を集計した報告では、フェノフィブラート併用例ではゲムフィブロジルに比べ横紋筋融解症の発現が非常に少ないことが示されている。このことから、同じフィブラート系でも薬剤の種類によりスタチンとの相互作用が異なる可能性が示唆される。現在、北米においてスタチン単剤とスタチン+フィブラートの有用性を検証するACCORD試験が進行中で、両薬剤の併用療法に関する期待が高まっている。

表1 糖尿病患者における大血管障害の発症率とリスクファクター
表1 糖尿病患者における大血管障害の発症率とリスクファクター
図3 FIELDにおける微粉化フェノフィブラートによる一次予防患者に対する効果
図3 FIELDにおける微粉化フェノフィブラートによる一次予防患者に対する効果
*:
非致死性心筋梗塞,冠動脈心疾患死
**:
非致死性心筋梗塞,冠動脈心疾患死,脳卒中,他の心血管疾患による死亡,冠動脈・頸動脈血行再建術
***:
両群における既往歴のない患者数の内訳
プラセボ群 = 3,837例
フェノフィブラート投与群 = 3,827例
図4 FIELDにおける微粉化フェノフィブラートによる細小血管障害の抑制
図4 FIELDにおける微粉化フェノフィブラートによる細小血管障害の抑制

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糖尿病およびメタボリックシンドロームに対するフィブラートの可能性と期待

 従来から糖尿病やメタボリックシンドロームの基盤をなす共通の病態として、インスリン抵抗性の存在が指摘されている。インスリン抵抗性はリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性低下などを介して高トリグリセライド血症や低HDLコレステロール血症を惹起する。そして、こうした患者ではsmall dense LDLやレムナントの増加などのリポ蛋白異常や食後高脂血症がみられ、これらが動脈硬化の促進に関与することがわかっている。帝京大学における研究でも冠動脈病変のある患者とない患者において、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセライド値などに有意な相違はみられなかったが、平均LDLサイズは冠動脈病変のある患者で有意に小さく、small dense LDLの存在が示唆されている。さらに、これらの患者にインスリン抵抗性が存在することも糖負荷試験で確認されている。また、メタボリックシンドロームではApoB48が有意に増加しており、食事性のカイロミクロンのクリアランスに異常が認められる(表2)。これは、食後高脂血症が動脈硬化を促進するという前述の考えを支持する所見と言える。
 糖尿病やメタボリックシンドロームにおける動脈硬化進展メカニズムが分子レベルで解明されはじめ、フィブラートの意義がいっそう明確になってきている。 DAIS(Diabetes Atherosclerosis Intervention Study)およびFIELDでは、フェノフィブラートがLDL粒子サイズを大きくすることが確認されている。また、BIPスタディではメタボリックシンドロームに該当する患者のレトロスペクティブな解析により心血管イベントの有意な抑制効果が示された。
 今後、糖尿病やメタボリックシンドローム患者の心血管イベント抑制におけるフィブラートのさらなるエビデンスの蓄積に大きな期待がかかる。

表2 メタボリックシンドロームの有無と脂質関連因子の変化
表2 メタボリックシンドロームの有無と脂質関連因子の変化